アーサー・C・クラーク『楽園の泉』

解説にもあるように、この物語は一人の男が軌道エレベータの建設を構想し、それを実行に移す話です。まぁ実現には材料工学の進歩はもちろんのこと、それを可能にするもろもろひっくるめた政治的状況やらを必要とするわけですが、まさにバベルの塔です。

私は想像力が貧困なので、「10億トンのダイヤモンド」の威容を脳裏にはっきりと捉えることはできません。しかしながら、ヒトがいつかこの惑星を出て、その活動の領域を広げていくことは歴史の必然です。「明白なる天命」、マニフェスト・ディスティニーという術語には、手垢が付き過ぎているので誤解を招きそうな表現ですが、便利な言葉ですね。

はや、『楽園の泉』の感想ではありませんが、この手の巨大建築物だと、文明が滅んでも何らかの形で残るだろうなーというのが自分の好きなシチュです(笑)。ナウシカちっくな感じで、朽ちかけた感じとか、建設放棄された感じとか、崩壊仕掛った軌道エレベーターの側に工廠兼資源採掘鉱山町みたいなイメージです。ナウシカに、むかしの宇宙船の側にそんな町がありましたし、ペジテも確かそんな感じでしたっけ。

何と言うか文明が一度崩壊して、黄昏の時代を生きつつも、過去の栄光を示すよすががそこかしこにある、そんな世界が好きなのかもしれません。軌道エレベーターなんて、まさにそれだよなぁと思い、クラークの先見性に感嘆しつつ、本作を読み終えたのでした。

桜庭一樹『荒野の恋 第二部 bump of love』(ファミ通文庫)

粗筋やら、繊細なタッチの表紙絵他はリンク先で堪能していただくとして。自分くらいの年齢になると、「女子」とか「男子」とかいう術語を用いるのはある種の気恥ずかしさを感じるのですが、確かに女子にとって男子は不可解であり、男子にとって女子は不可解な生き物でした。まぁそれでも、女子の方がいくぶん大人であったでしょう。なぜかそういうことを思い出しながら読んだのですが、メインターゲットであるところの、男子中高生諸君はどのように感じるのか興味は尽きないところです。