サンクリ31雑感

サンクリは、自分にとって割と愛着のある同人誌即売会です。一桁台から参加させて頂いていますし、同人のイロハを教えてもらった即売会と言っても差支えないかと思います。
そんなサンクリも回数を重ね、はや31回ですか。スタッフならずとも感慨深いものがあります。特にレヴォの終焉を契機とした出現した男性向けオールジャンル即売会という空白地帯を誰(どこ)が埋めるのかといった「跡目騒動」は今回で決着したかに見えます。それは、カタログの充実ぶり(「対抗馬」?たるキャッスルと比較せよ)、開場を待たずに完売したというエポックメイキングな出来事、後者などまさにサンクリこそがレヴォの正当な後継者の地位を勝ち得た証とも捉えることができましょう。
しかしながら、拡大を選択したサンクリの前途が洋々としたものでもありません。ひとつには、いわゆる超大手サークルは、今回は模様眺めと言うか、様子見でコミケシャッター前サークルクラスの多くは参加しておりませんでした。また従前、レヴォには参加していたけど、サンクリには参加していなかったサークルもまたその多くが参加しませんでした。いずれこれらのサークルさんは、大勢が決したことが明らかになれば、雪崩を打って春と秋のサンクリに申し込むことでしょう。大手や超大手にも悩みがあって、それは何かと申せば、あんまり変なイベントには出れない。出れば無用の混乱を招きます。また、小規模すぎるイベントにも出れない。なぜなら、出ればサークルの格を落とすから。これは、言い過ぎかもしれませんが、一流の作家やタレント、俳優が数あるオファーの中から相応しい仕事を選ぶように、そのような地位にあると目されるサークルもまた出展するイベントを絞るものだと考えられるからです。
それはさておきまして、これらのサークルを受け入れるとして、またサンクリ自身拒む姿勢を見せてはいないわけですが、その行きつく先は果てしなき一般参加者の更なる吸引と、サンシャインという会場のポテンシャルなかんずくキャパシティ上の限界です。末期のころのレヴォは、建前は別にしてほとんど徹夜容認(黙認)状態でした。何らかの対策(現在のサンクリが行っているような、いわゆるペナルティ)を実施しようにも、それを円滑に行うためのスペースすらの、後から後から押し寄せる一般参加者の待機場所として活用せざるを得ない現実がありました。レヴォも参加者数に比してあまりにも手狭な会場のキャパの問題(&近隣住民からのクレーム対策)の根本的解決策として、ビッグサイトで開催するという野心的、そして実験的な試みを実施しておりますが、残念なことにレヴォ自体が終焉を迎えてしまったために、その効果を実証するまでには至らず、ただ先例のみを残すことになったのです。そして、おそらくは会場予約の問題(通常、半年から一年前には抑えておくのが通例)、費用、アクセスの問題、そして何より、サンクリは、サンクリこそは「サンシャインクリエイション」であって、ある種アイデンティティの否定にも繋がりかねない決断です。おそらくは、そのようなコンセンサスが準備会内部で形成されるまでは紆余曲折があることでしょう。拡大し続ける限りコミケという格好の先行事例が経験し解決しあるいは直面している課題に相似したトラブルに見舞われることに違いありません。アメリカ社会は20年後の日本の社会の縮図とよく言われます。それと同様な関係がコミケサンクリの間にも成り立つのではないでしょうか。ましてやサンクリコミケの精神的な息子であり、実際両方のイベントのスタッフをかけ持ちすることもまったく珍しいことではないとも聞き及んでいます。
サンクリが中規模イベントのままであれば、考慮せずにいられた問題、または可能であったことが多岐に渡っております。その最たるものが前述の「徹ペナ」問題でもあります。より正確には、徹夜早朝来場問題と言い換えるべきでしょうか。サンクリはこの問題に対してはかなり毅然とした対応を今のところ取っており(過去には、伝説の雪かきペナルティなんてのもあった)、私はそれを高く評価するものですが、果たしてそれをいつまで続けられるか危惧するものです。まさに、準備会の覚悟が、そして言わずもがなのことながら、我々一般参加者のマナーが試されていくことになるのです。大げさなように感じられるかもしれませんが、レヴォ終了のニュースに自分は、正直喪失感を覚えました。中の人ではないので本当の理由など分かりませんし、主催の個人的理由が原因かもしれません。また、そういうゴシップを面白おかしく邪推するのが本稿の目的でもありません。しかしながら、レヴォの、いやこう言い換えましょう、コミケに次ぐ2番目に大きい男性向けオールジャンル同人誌即売会の継続的開催を阻み、遂にはファイナルと言うカタチで終わりを迎えなければならなかった理由とは何か。サンクリが、レヴォと同じ道を辿ることだけは避けなければならないと強く思うのです。今、一見すると毎週のようにイベントが開かれ、活況を呈しているように見えますが、その裏でP2Pの問題、同人誌委託書店なかんずく虎の穴の存在感のますますの伸長などにより、実際に同人誌即売会で動いているお金の絶対額はむしろ減少しているのではないかとすら思えます。ここらへんは資料的裏付けもなく感覚的な議論ですので、捨象するにしても決して楽観できる状況ではないように思えるのです。
しかし、ペシミスティックな敗北主義に浸ることによって、事態が好転するものではありません。偉大なるカー先生の歴史的名著『歴史とは何か』における古典的叙述は今に至るも推敲の余地はないものと断言致します、すなわち、手前味噌で恐縮ですがレヴォ追悼を記念し執筆した文章を再掲させて頂き、本稿を終了させて頂きたいと思います。
『それでもーそれは動く』